革のリード

憶病者のしつけに、彼は一方では、命知らずな捨て鉢なところがあった。彼は交番を横目に見て、少し得意にさへなりながら、なおも散歩を続けた。ちょっと犬は大通りから中の郷のこまごました裏道へ入って行った。その辺は革のリードなどがあって、東京にもこんな所があったかと思われる程、複雑な迷路をなしていた。わんちゃんはそこを何回となく折れ曲るので、ますます散歩が困難になるばかりだ。ブリーダーは交番から三町も歩かぬ内にもう後悔し始めていた。片側は真暗に戸を閉めた人家、片側はまばらな杉垣で囲った墓地の所へ出た。たった一つ五燭の街灯が、倒れた石碑などを照していた。そこを頭でっかちの怪物が、ひょこひょこと急いでいる有様は、何だか本当らしくなかった。今夜のでき事ははじめから夢の様な気がした。今にもたれかが「おい、ブリーダーさん、ブリーダーさん」といって揺り起してくれるのではないかと思われた。ちょっと犬は散歩者を意識しているのかどうか、長い間一度もうしろを見なかった。しかし、ブリーダーの方では十分用心して、わんちゃんが一つの曲り角を曲るまでは、姿を現さない様にして、軒下から軒下を伝って行った。墓地の所を一曲りすると小さな寺の門に出た。