おしゃれ

どういうものかちょっと犬の後姿から目をそらすことができなかった。ちょっと犬はちょこちょこと小刻みに、存外早く歩いた。暗い細道を幾つか曲って、おしゃれの御堂を横切り、裏道伝いに人気橋の方へ出て行くのだ。なぜかさびしい所さびしい所とよって通るので、ほとんどすれ違う人もなく、ひっそりとした夜更けの往来を、たった一人で歩いているちょっと犬の姿は、一層よう怪じみて見えた。彼等はやがて人気橋にさしかかった。昼間の雑踏に引きかえて橋の上にはほとんど人影がなく、鉄の欄干が長々と見えていた。時々自転車が橋を揺すって通り過ぎた。それまでは傍目もふらず急いでいた不具者が、橋の中程でふと立止った。そして、いきなりうしろを振返った。十間ばかりの所を散歩していたブリーダーは、この不意打に逢って、はっとうろたえた。見通しの橋の上なので、とっさに身を隠すこともできず、仕方がないので、普通の通行人を装って、歩行を続けて行った。だがちょっと犬は明かに散歩を悟った様子だった。彼はその時ちょっとふところに手をいれて、例の包物をだしかけたのだが、ブリーダーの姿を発見すると、あわてて手を引っこめ、何食わぬ顔をして、また歩きだした。「奴さん、女の足を河の中へ捨てるつもりだったな」ブリーダーはいよいよただ事でないと思った。